(SE)波の音。ザザー。ザザー。以後、オープニングまで薄く続く。
OP前セリフ
皆本大祐「ぼくは、夏になるたびカマクラを想いだす……」
タイトルNA(朝比奈響子)インタラクティブドラマ

第5話 コールドフィンガー

オープニングBGM

(SE)教習所のホールからコースへ向かう足音。NAの途中で自動ドア開く音、閉まる音。ミンミンゼミ、教習所のコースの環境音。

NA(皆本大祐)(ゆっくりと独白調で)
由里さんがデートの約束をしたいと言ったのは、どうやら夢じゃないらしい。
ぼくの教習を優先にしてくれることといい、あの雷雨のカマクラ山での態度といい、
もしかしたら、由里さんはぼくに好意を持っているんじゃないだろうか。
……ええと。ぼくはなにを言ってるんだろう?や、やっぱ夢かな……。

(SE)ギュウゥゥ!つねる音。
皆本大祐「い、いでっ!」
北条由里「(エコー)ほら!ぜーんぜん夢じゃないでしょ?」
大祐「な、なんで……由里さんが……」

(SE)コツコツコツコツ!ヒールの音遠ざかる。
NA(大祐)
……あれ?誰もいないや……。やっぱ夢?……。
いや、たとえ夢だっていい。夢だって覚めなければ、現実と同じだ。


(SE)背後からヒールの音。
(この音は夢の由里のヒールが実は響子のものだったことになりますので、フェードO/Iしながらつなげてください)
コツコツコツコツ。

朝比奈響子「皆本くん!」
大祐「(びくっ)は、はいー?」
響子「おはよう!」
大祐「あ!朝比奈教官!おはようございます!」
朝比奈響子「なに驚いてるの?へんなひとね。それより、さっそく教習始めましょう!」
大祐「は、はい!朝比奈教官、よろしくお願いします!」
響子「(落ち着いて)響子でいいわ。なんか堅苦しいから……」

(SE)二人、教習車に乗り込む。ドアの開く音、閉まる音。
大祐「あ、はい響子さん!(独白)……響子さんって落ち着いてて、大人っていう感じだよなあ。今日は、ちゃんとした教習になりそうだ……」
響子「皆本くん?」
大祐「はい?」
響子「ちょっと、うわさに聞いたんだけど……」
(SE)エンジンをかける音。ブルルルルン!
響子「由里の教習で、路上に出てるって本当?」
大祐「(どきっ)え?」
(SE)プシュシュン!エンストする。
響子「(すぐに自分で納得)まさかね。ごめんね。そんなことあるはずないわよねえ」
大祐「(ほっとして)そ、そうですよ。そんなことあるはずが……」
(SE)大祐気を取り直してエンジンかける音。ブルルルルルン!
響子「(あたりをはばかるように)でも、もし本当だったら……」
大祐「……だったら?」
響子「……ってそんなはずないわね」
(SE)プシュシュシュン!エンストする。
大祐「(ずっこける)あ、あのどっちかにしてくれません?」
響子「あ、単なるうわさだから……気にしないでね。さ、そんなことより、とりあえずいつものコースを回りましょう!」
大祐「はい!(独白)で、でも、いずればれるんじゃないだろうか……」
(SE)車のエンジン音。ブブゥゥゥゥゥゥ。


NA(皆本大祐)
そうして、ぼくは教習所のコースを何度か回った。
技能教習はもう10時限になろうというのに、教習所のコースを回るのは、まだ3度目だった。けど、全然緊張しなかった。
どうしてかって?由里さんにさんざん路上を走らされて、度胸だけはひと一倍ついたからだと思う。

響子「皆本くん!」
大祐「(びくびく)は、はい!なんでしょうか?」
響子「(ゆっくり)きみ、車両感覚がかなり身についてるわね。
S字とかクランクに入るとき、ハンドル操作に全然迷いがないし、ギアチェンジのタイミングもばっちりじゃない!」
大祐「そ、そうですか?」
響子「もしかして、過去に車を運転した経験があるの?」
大祐「いえ。この教習所が初めてです」
響子「ふーん。そうなの……。少し見直した。皆本くんのこと」
大祐「あ、ありがとうございます。
(独白)毎回、命がけでやってれば、いやでも上達するよなあ」
響子「その調子ね。まずは車を運転する感覚に慣れること。そうすれば、第一段階のみきわめはすぐよ」
大祐「はい!がんばります!」
響子「……あとは、早く交通状況や法規に従った応用走行ができるようになることね」
大祐「はい!ありがとうございます!……あ!そうだ、響子さん?」
響子「なにかしら?」
大祐「(おずおず)あ、あのー、由里さんってどんなひとなんですか?」
響子「由里?皆本くん、由里のこと、気になるの?」
大祐「(口ごもりながら)い、いえ、あの、な、なんて言うか……。
ゆ、由里さんっていいひとですよね?」
響子「(こだわりなく)由里はねえ、ふふふ。すっごいアバウトな子よ」
大祐「(独白っぽく)やっぱりね」
響子「(感慨深げに)けど、実はね、ああ見えて、由里って、とっても思いやりがあるし、それにいざっていうとき本当に頼りになるの。
わたしが今こうして教官でいられるのも、彼女がいろいろとね、助けてくれたから……」
大祐「ふうん。由里さんがねえ……。そうなんですか……(独白)実は、非常に意外だったりして……」

(SE)教習所のホールの雑踏。ガヤ。
NA(皆本大祐)
ぼくは、その日、朝比奈教官の技能教習を受け、この教習所で初めて自分の運転を評価してもらえた。
由里さんには、ずっと注意されてばかりだったから、すっごくうれしかった。

(SE)携帯の着信音。RRRRR。RRRRR。大祐携帯に出る。ピッ。
大祐「はい!もしもし?」
北条由里「(電話の声)もしもし?由里だよ!」
大祐「あ、由里さん!」
由里「(電話の声)あっついねー、今日は。ね!今どこにいるの?
(SE)電話の向こうで蝉時雨」
大祐「どこって、教習所ですけど……」
由里「(電話の声)ビンゴ!じゃ、あたし今どこにいると思う?(SE)電話の向こうで蝉時雨
大祐「え?ど、どこって……。外かなあ?」
由里「(電話の声)チッチッチッチッチッ……ブッブー。時間切れ!ざーんねんでした。正解は源氏山公園!」
大祐「正解は、って……。由里さん、源氏山にいるの?午後の教習は7号車を予約してたはずなんですけど……」
由里「(電話の声)ありがと!指名してくれたんだよね!」
大祐「え、ええまあ。じゃ、これから教習所に?」
由里「(電話の声)ちょっと私用でダブルブッキングになっちゃってさあ。ごめんねー」
大祐「あ、い、いいんですよ。ぼくも予約入れるの遅かったし……それじゃ理恵ちゃんに頼んでキャンセルの号車を探してもらいますから」
由里「(電話の声)そうじゃなくて。皆本くん、教習所にいるんでしょ?だからさ、7号車で迎えにきてくれれば、ここから技能教習できるじゃん!」
大祐「(ちょっと声が大きい)ええっ?」
(SE)大祐の背後からヒールの音。前の由里のセリフからかぶる。コツコツコツ!
由里「(電話の声)キーは理恵に言えばスペア出してくれるからさ!」
朝比奈響子「皆本くん、どうかしたの?」
大祐「(びっくり)きょ、響子さん!あ、あのー。由里さんが、ぼくをハイヤー代わりに……(言いかけて口をつぐむ)と……。
い、いえ。な、なんでもありません」
響子「電話の相手、由里ね?」
大祐「(あわててごまかそうと)え?い、いや、なんていうか、その……」
響子「(落ち着いてる)代わっていただけるかしら?」
大祐「(狼狽)は、はい」
(SE)携帯を手渡す音。ポン!
由里「(電話の向こうでまだ相手が大祐だと思ってる)もしもーし?聞こえてる?」
響子「聞こえてるわ」
由里「(電話の声)じゃ、早く7号車で迎えに来てよ!」
響子「誰を?」
由里「(電話の声)誰って、あたしに決まってんじゃん」
響子「で、誰が迎えに行くの?」
由里「(電話の声)だから皆本くんに決まってんじゃない!」
響子「皆本くん?」
由里「(電話の声)あれ?だ、誰?」
響子「わからないの?」
由里「誰よー?まさか皆本くんの……」
響子「(たしなめるように)なに言ってるの由里、わたしの声、忘れたの?」
シーンチェンジ。由里の主観から。
由里「(独白)ゲ、響子。なんで響子が……」
響子「(電話の声)わたし聞き間違えたのかしら。誰が迎えに行くって?」
由里「(必死でごまかす)や、やーねー。きょ、響子よもちろん!。
あたし、どーしても外せない用があったからさ。悪いんだけど、迎えに来てくれない?響子さま、お願い!」
響子「(電話の声)わたしはいいのよ。午後イチは予約入れてないから……。
でも由里、今確かに皆本くんって言ったよね。まさか皆本くんに路上運転させてたり……」
由里「(あわててさえぎる)な、なに言ってるのよー。そ、そんなことあるはずないじゃん!
響子の運転で、皆本くんにも来て欲しいって言ったのよ!」
響子「(電話の声)どうして皆本くんがあんたを迎えに行かなきゃいけないの?」
由里「(必死でごまかす)そ、それは……え、ええと……」
(SE)蝉時雨、徐々に強調される。
由里「そ、そうだ!ほら!今日ってめっちゃ暑いじゃない!だから皆本くんに冷たーいカップアイスでも買ってきてもらいたいなーなんて話してたのよねー。ふふふふ。も、もちろん響子にもおごってあげるからさ!」
(SE)蝉時雨、徐々に強調される。そしてこのSEは電話の向こうの音になってゆく。
背後から、腐葉土を踏みしめて近寄ってくる男の足音。

シーン再チェンジ。響子の主観から。
響子「(落ち着いてる)皆本くん、由里にカップアイス頼まれたって本当?」
大祐「カ、カップアイスう?(しかし、するどく状況察知)あ、そ、そういえば、由里さんそんなこと言ってたような……」

NA(皆本大祐)
そうして、ぼくと響子さんは、007号車に乗って源氏山公園に向かった。
響子さんの運転は由里さんのとはまるで違っていた。二人ともプロのドライバーなんだけど……。
由里さんが、ギリギリのコーナーを攻める大胆なF1レーサーだとすれば、響子さんは、安全確実。
白い手袋のタクシードライバーだと言えばわかっていただけるだろうか。


(SE)山の静寂を破る蝉時雨。静けさや岩にしみいる蝉の声。
背後から腐葉土を踏みしめて近寄る男の足音、近くに来て止まる。

謎の男「(軽い)由里!いつまで電話してんだよ!ひさしぶりなんだからさ、もっと二人の時間を大切にしようと思わねーの?」
(SE)携帯を切る音。ピッ。
由里「(独白)あぶなかったー。響子ってするどいんだよねー」
謎の男「誰だよ?」
由里「誰だっていいじゃん!」
謎の男「よかねーよ。だいたい、お前、なんか最近冷たくねーか?」
由里「(落ち着いてる)わたし、束縛されるのあまり好きじゃないんだよね」
謎の男「……男か?」
由里「関係ないじゃん!」
謎の男「関係ねえってことはねーよ!俺たち付き合ってるんだから」
由里「(真面目)ねえ、そのことなんだけどさ……」

場面転換。007号車の中。
(SE)車の走る音。街中の環境音。雑踏ノイズ。
朝比奈響子「源氏山公園だったら、梶原口交番前から左に入って、バス通りをS字坂下に向かうのが早いわね」
皆本大祐「あのー」
響子「なに?」
大祐「ちょっと駅前に寄ってくれません?」
響子「どうして?ああ、カップアイス?」
大祐「ええ、まあ」
響子「少し遠回りになるわね」
大祐「駅前に『フォーティワン』があったと思うんです」
響子「皆本くん、なんか由里のいいなりになっちゃってるみたいね」
大祐「え?いえそんなことは、由里さんにはずいぶんお世話になってるし……響子さんは、バニラ?オレンジ?それとも抹茶とか」
響子「(つぶやくように)皆本くんって優しいんだね」
大祐「え?」
響子「ううん。じゃ、抹茶がいいかな……」
大祐「はい。じゃ、駅前で少し停めてください。ぼく、急いで買ってきますから……」

場面転換。源氏山公園。
(SE)山の静寂を破る蝉時雨。
謎の男「(あわてて)な、なんだよ急に、別れようだなんて!」
由里「いろいろ悩んだんだけどさ……」
謎の男「俺のどこが気に入らないって言うんだよ!」
由里「そういうとこ」
謎の男「そ、そういうとこって……」
由里「だから、なんていうのかな。自分本位なくせにうじうじしてるっていうか……。
男の人には、細かいことあーだこーだ言って欲しくないんだよね」
謎の男「お、おれは、お前のことを思って……」
由里「ほら、そういうとこも!なんか押し付けがましいんだよ」
謎の男「わ、わかった。ちゃんと話し合おう!」

(SE)街の雑踏。ドアの開く音。閉まる音。車走り出す。ブブゥゥゥゥ。
響子「皆本くん?」
大祐「はい?」
響子「さっき、由里のこと聞いてたわね?」
大祐「え?ええ、まあ」
響子「由里ってさ、すっごくいい子なのに、男運悪いんだ……」
大祐「え?」
響子「言い寄ってくる男は、みんな外見だけはかっこいいんだけど……。肝心の中身がね……。
わたしが高校のクラスメートだったとき、由里に藤原くんっていう、無口で責任感の強いボーイフレンドができたんだけど、
彼、留学しちゃって……」
大祐「な、なんの話ですか?」
響子「由里って、ああ見えて寂しがりやなの……だから、皆本くんが……」
大祐「ぼ、ぼくが……?」
響子「(少し間を取ってください)ううん。なんでもないわ。ね、皆本くん?」
大祐「はい?」
響子「カップアイス。持ってないで横に置いたら?」
大祐「え?あ、ああ。いいんです。このへんって起伏が多いし、転がって下に落ちたりするといけないから……」
響子「ふーん」
(SE)車の走る音。ブブゥゥゥゥ。

大祐「……あの坂道を登ると源氏山公園ですね」
響子「そうね、あと少しで、……あら?」
大祐「どうかしました?」
響子「由里じゃない?あれ」
大祐「え?あ、ほんとだ!」
(SE)車止まる。キッ。ドア開く音。ガチャ!閉める音。バム!蝉時雨。
ヒールの走ってくる音。コッコッコッコッ。止まる。

大祐「由里さん!」
由里「(息を切らしてる)はあ、はあ、はあ、はあ、あー疲れた。はあ、はあ。
あ、ありがとう、皆本くん、迎えにきてくれて」
大祐「い、いえ。響子さんに連れてきてもらったんです……」
(SE)ドアを開く音。ガチャ。閉める音。バム!響子、車から降りてくる。
響子「由里、早く戻らないと午後の教習に間に合わなくなるわ」
由里「あ、響子!わざわざありがとう!忙しいのにごめんねー」
響子「いいわ。わたしもちょうどおうぎがやつ扇ガ谷で用事があるところだから……」
由里「それじゃ、行こうか皆本くん!」
大祐「は、はい!」

(SE)由里、乗り込む音。ガチャ!バム!続いて、大祐乗り込む音。ガチャ!バム!
由里、パワーウィンドウを開く音。フイーン。

由里「……響子は乗らないの?送ってくよ!」
響子「わたしはいいわ。近くだし、歩いていくから……」

(SE)そのとき、由里のケータイの着信音。唱歌カマクラ。
由里「ゴメン、ちょっと待ってて……」
(SE)由里、ケータイに出る。ピッ。
由里「もしもし?(声の調子激変)あ、あんたなの?だからさっき全部話したじゃん!
もうあんたとは付き合いきれないって、もー。しつこいんだからー。
自分の胸に聞いてよ。え?新しい男?できたわ!
も、あんたなんかより、すっごくかっこよくてすっごく頼りになってすっごくリッチで、すっごく優しくて、
あと、すっごくいろいろすっごいひとなんだから!(このあたりから大祐のセリフとかぶる)
え?なに?だから嘘じゃないってば!え?本当なら話がしたいって?
あ!ちょうどよかった!今、彼、目の前にいるんだから!」

(SE)ドア開く音。ガチャ!
大祐「(前の由里のセリフからかぶります)由里さん、お取り込み中みたいですね」
響子「そうみたいね」
大祐「プライベートな話みたいだし……。少し、離れてたほうがよさそうですね」
響子「……そうかもしれないわね」
(SE)大祐、車から足を踏み出す音。ジャッ。
由里「あ、ね、皆本くんちょっと待って!」
(SE)由里、大祐の手をギュッと握り締める音。ギュウッ!
由里「つ、つめたっ!皆本くん!な、なんでそんなに冷たい手してるのよ?」
大祐「え?つ、冷たいですか?」
由里「とにかく!はい!皆本くんに話があるんだって!」
(SE)ケータイを手渡す音。ポン!
大祐「え?ぼくに?だ、誰ですか?理恵ちゃん?」
由里「話してみればわかるよ」
大祐「は、はい。(おそるおそる)もしもし?」
謎の男「(電話の声)あれ?お前だれだ?ちきしょー!本当かよ!」
大祐「本当ってなにが?もしもし?ど、どちらさまですか?」
謎の男「(電話の声)なんだよ!全然そんな素振り見せなかったのに、ふたまたかよ!」
大祐「へ?ふたまた?い、いったいなんのことですか?」
謎の男「(電話の声)るせーんだよ。ちくしょー!」
(SE)謎の男が電話を切る。ピッ。
大祐「(独白)誰なんだろ?」
由里「(前のセリフにかぶります)皆本くんの手、なんだってあんなに冷たいんだろ」
大祐「由里さん、切れちゃいましたけど」とケータイを返す。(SE)手渡す音。ポン。
響子「(落ち着いて聞かせるように)由里……。手が冷たいひとは、こころがそれだけあったかいのよ。ね!皆本くん!」
大祐「え?」

響子「あ、抹茶アイスいただいていくわ。ありがと!皆本くん」
(SE)大祐の抱えていた袋からアイスカップを取り出す音。ガササ。
由里「抹茶アイスう?なあんで皆本くんが響子にアイスおごるのよ?」
響子「ほら、もう忘れてる。思いつきで言ってるってバレバレね。それじゃ、またね」
(SE)ドアの閉まる音。バム!続いて大祐がパワーウィンド開く音。フイーン。
大祐「響子さん!今日はありがとうございました。またよろしくお願いします!」

(SE)ヒールの音。だんだん遠ざかる。
由里「ちょ、ちょっと響子お。(あきらめてたしなめるように)ね、皆本くん?」
大祐「なんですか」
由里「どうして皆本くんが響子にアイスおごるの?」
大祐「いえ。ぼくのおごりじゃないですけど……」
由里「じゃ、誰のよ」
大祐「由里さん」
由里「へ?ど、どーしてあたしが……?」
(SE)背後で聞こえていた蝉時雨の音がだんだん大きくなる。
由里「(突然思い出す)あああああっ?」
大祐「もちろん、由里さんの分もありますよ、ほら」
(SE)紙袋を開くような音。
由里「(あわてて取り繕う)あ、そ、そーなのよ。今日は朝から暑くってさあ。ありがと!
ずうーっと待ってたんだよねー。カップアイス!」
大祐「じゃ、溶けないうちに食べましょうか?」
由里「うん」

大祐「ところで、由里さん?」
由里「なに?」
大祐「さっきの電話のひと誰なんですか?」
由里「あ、思い出した!これ食べたらすぐに行かなきゃ!」
大祐「どこへですか?」 由里「北カマの東慶寺に決まってるじゃない!縁切り寺よ!」
大祐「え、縁切り寺?」
由里「(後半は、食べながら)そ!悪い縁を断ち切って、新たな気持ちで再スタートするの!ね!皆本くん?」
大祐「へ?」
(SE)由里、シャーベットアイスをスプーンですくって口に入れる。
由里「(もぐもぐ)ふんふん。あー、冷たくっておいしい!
(少し間)(独白)冷たい……?(思い至る)あ……」
(SE)一瞬の回想。
響子「(エコー)由里……。手が冷たいひとは、こころがそれだけあったかいのよ」
由里「(やさしく)皆本くん?」
大祐「はい?なんでしょうか?」
由里「(少し照れながら)ううん。ちょっとお礼が言いたかっただけ。ありがとう……」

(第5話終わり)

【カマクラカルトクイズ5】
梶原理恵「それじゃ、みんな準備はいい?せーのっ!」
3人「カマクラカルトクイズー!ドンドンパフパフー!」
理恵「やっと呼吸が合ってきたね。うんうん。それではさっそく問題!
北カマクラには鎌倉五山と呼ばれる最高位の禅寺があるんだけど、
その中でも第一位に定められているお寺はいったいどこでしょうか?」

北条由里「はいはーい!北カマ駅前の円覚寺!元寇の戦死者を弔うために創建されたんだって!」
朝比奈響子「由里が間違えてちゃダメね。5代執権北条時頼が宋の蘭渓道隆を招いて開いた日本で初めての禅寺、建長寺ね」
梶原理恵「二人とも違うね。頼朝の妻、北条政子と幕府3代将軍源実朝の墓所がある寿福寺が正解だよ」


音声ドラマとシナリオは演出の都合上、一部変更されている場合があります。
(C)2000-2001 (K)

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