(SE)波の音。ザザー。ザザー。以後、オープニングまで薄く続く。
OP前セリフ
皆本大祐「ぼくは、夏になるたびカマクラを想いだす……」
タイトルNA(朝比奈響子)インタラクティブドラマ

第14話 黄金錠を持つ女(後編)


(シーンチェンジ、ロビーの環境音。由里と源じい)

(SE)セミの声。自動車教習所の自動ドアが開き、カメラが中に入ると、カマクラ自動車教習所のロビー。
教習生たちの雑談に混じってアシカガリョウコの独白。

アシカガリョウコ「(独白)アオイ様ったら、今日はずうっと誰かと電話してるのよね。
いったい誰と話してるのかしら?もう少し近寄れば聞こえるんだけど、盗み聞きしてるって思われたら嫌だし」
アオイ「北条を落とそうと思って潜入したが、別の魚がかかった。まあ、どちらにしても、いい獲物だ。
すっかりその気になっている。今晩さっそくデートをすることになった。ハンゾウのほうは?」
ハンゾウ「(電話の声)こちらはなかなか手ごわそうだ。なにしろハートにアイアンロックと言われるアシカガユウコが相手だからな」
アオイ「らしくないな。いい作戦が浮かばないのか?」
ハンゾウ「(電話の声)いや。アシカガユウコを罠にかける極上のエサが見つかった」
アオイ「エサ?」
ハンゾウ「(電話の声)そう、西園寺人麻呂25歳。西園寺財閥の御曹司だが、社会人としては使い物にならず、
グループの関連会社をタライ回しされている。
自己チューでスケベで、マザコンのデブだ。こんなに扱いやすいエサはそうそうめったにいるもんじゃない。
そいつがどうやら、財界のパーティ会場でアシカガユウコにひとめぼれしたらしい。
彼女もとんだ災難だが、俺にとっちゃいい役者を演じてくれそうだ」
アオイ「久々にハンゾウ『あやつりの術』を楽しめるってわけだ」
ハンゾウ「(電話の声)うまく行くといいがな」
アオイ「ハンゾウの術が破られたためしがないじゃないか」
ハンゾウ「まあ、最後まで気が抜けないってことさ」
アオイ「で、いつだ?」
ハンゾウ「決行は今晩だ」
アオイ「ずいぶん急だな」
ハンゾウ「今日はアシカガユウコの誕生日なのだ。このチャンスを生かさぬ手はない」

(SE)ヒールの足音。コツコツコツ。自動ドア開く。閉じる。
アオイ「うむ。確かに。おっと誰か来た。ハンゾウ!悪いが、あとでまた連絡する!」
ハンゾウ「(電話の声)了解。じゃ!」ケータイを切る音。ピッ!
リョウコ「やっと電話が終わったわね!さっそくアオイ様に近づいて、と思ったらあの女だわ!
ったくタイミングが悪いんだからー!」

(SE)由里と理恵、アオイがそばにいることに気が付かずに立ち止まる。
理恵「だいたい由里は気持ちにムラッ気があるんだよ!アオイさんがいいんならアオイ
さんとつきあえばいいじゃん!」
由里「ったくあんたは単純なんだから!あたしがアオイさんとつきあっちゃったら、
皆本くんどうなっちゃうのよ。彼ってあたしに気があるみたいなんだからね!」
理恵「(独白)どっちが単純だか。気があるのは由里のほうじゃないの。ま別にいいけどね。(独白おわり)
だいじょうぶ。皆本くんのことはぜーんぜん心配いらないよ」
由里「どうしてよ?」
理恵「あたしがつきあってあげるもん」
由里「なんであんたが皆本くんとつきあうのよ!」
理恵「だって由里、アオイさんとつきあうんでしょう?」
由里「まだ決めたわけじゃないもん!」
理恵「じゃ、決めちゃえばいいじゃん。アオイさんって女性教官の間で、すっごい人気だから、
早くしないと誰かに取られちゃうよ。てゆうかもう取られちゃってるかもね。ふふふ」
由里「アオイさんがーっ?」
アオイ「呼びましたか?」
由里・理恵「うあ、ア、アオイさん?いたの?」
アオイ「さっきからずうっとここにね。あはは。(苦笑)
けど、どうりであたりが急に眩しくなったような気がしたわけです。
(芝居かかって)由里さんが、溢れんばかりの美しさをこの小さな自動車教習所のロビーいっぱいに
振りまいていたからですね。それから、受付が一面のお花畑に見えるくらい明るくてチャーミングな笑顔で、
毎日、みんなを癒してくれる理恵ちゃん!こんにちは。ぼくになにか?」
理恵「(独白)アオイさんって、普通に会話できないのかな?」
由里「えーっ?あたし眩しいくらい美しいですって?本当にアオイさんって、あたしのことよくわかってるよねーっ」
アオイ「いいえ。ぼくなんかまだまだぜんぜん未熟者です。
由里さんの美しさがあまりに眩しくて声をかけるのがためらわれるくらいですよ」
由里「ほんとーっ?嬉しいなーっ!」
理恵「(独白)由里ほんっとに嬉しいとしたら、あたしは由里の知性を疑うよ」
(SE)シャキイイイイン!(リョウコが刺すような視線でじっと見つめている)
由里「はっなんだろ?今、ロビーのほうから刺すような視線を感じたんだけど」
リョウコ「(独白)キイイイイ!なによなによなによなによなによ!どうしてアオイ様が北条由里に近づくのよ!
今夜はあたしとデートだっていうのにー!」
由里「(前のセリフ食う)ね、アオイさんって、お付き合いしてる彼女とかいるの?」
リョウコ「(独白 勝ち誇っている)なに言ってるのよ北条由里!当然でしょ!あーっはっはっはっは」
アオイ「(あっさり)いえ、いません」
リョウコ「(独白つづき)はっはっはっはは?」
由里「(嬉しそう)え?つきあってるひといないの?」
アオイ「ええ。ぜんぜん。由里さんは?」
由里「あたしも今のところ、どっちかっていえばフリーかな。
けど、あたしのこと好きなんじゃないかなーって思う男の子はいるけどね」
アオイ「告白されたんですか?」
由里「そ、そういうわけじゃないけど。感じるのよね、彼の態度とか視線とかから。
あれはきっとあたしのことが好きなんだよね」
リョウコ「(独白)どういうことかしら?アオイ様、わたしとおつきあいすることになったはずじゃない」
理恵「でも由里、アオイさんとおつきあいしたいんだよね」
由里「な、なに言い出すのよ理恵!あたしがアオイさんと?
そ、そんなことぜーんぜん考えてみたこともないかって言えば、嘘になるかなーって
思ってみたりしないことはなかったりするんだけど、まだはっきりしてるわけでもなかったりするのかなーって
気がしないでもない今日このごろなわけなのよー!」
理恵「(志村けん風)あんだって?」
アオイ「ひとことで言えばフクザツな乙女心ってやつですか?」
由里「そ!そーなのよ!それ、それ!やっぱアオイさんって女性の心理を的確につかむよねーっ」
アオイ「女性の心理ではなく、『美しい女性の、心理』ですね」
由里「へ?ほ、ほんとーっ?」
理恵「(冷めてる)さあてと、後は若いふたりにお任せして。あたしはこのへんで失礼するよ。じゃね」
(SE)理恵、二人のそばから歩き去る。コツコツコツ。
由里「あ、ねえ理恵、どこ行くのよーっ!」
理恵「皆本くんがそろそろ路上教習から戻ってくるはずだから、そしたらランチいっしょに食べよかなーって
あれ?そういえば、皆本くんの午前中の教習って由里が担当になってたじゃん!なんでここにいんの?」
由里「え?ぅあ!皆本くんのこと忘れてた!コンビニで車庫入れの練習させたまんまだ!
迎えに行かなきゃ!アオイさん!また後でねーっ!」
アオイ「(走り去る由里に)ええ、由里さんだったらいつでもおつきあいしますよ」
理恵「(声すでに遠い)ねえ、由里!あたしが皆本くんとお昼食べるんだからねーっ!」
(SE)由里と理恵が走って教習所から出てゆくヒールの音。コッコッコッコッ!続いて、リョウコが近寄ってくるヒールの音。
リョウコ「(ささやく)ねえ、アオイ様!」
アオイ「はい?あ、リョウコさん?どうしてここに?」
リョウコ「ね、あたし、今、とーっても気になることがあるのだけど」
アオイ「どうかしたんですか?リョウコさん?」
リョウコ「アオイ様、さっき北条由里に言ってたでしょう?今、つきあってるひといないって」
アオイ「ええ、言いましたが」
リョウコ「アオイ様、あたしとつきあってるじゃない!」
アオイ「ああ、そのことですか。あははは、だって、リョウコさんが言ったんですよ。
ふたりのことは教習所のみんなには内緒にして欲しいって」
リョウコ「そ、それはそうだけど。と、とにかくあの女が、もしアオイ様に交際申し込んできたら、
そのときは絶対にお断りなさってね」
アオイ「わかりました。(独白)けど、それって、ぼくから誘う分には構わないということですよね」
リョウコ「なに?アオイ様」
アオイ「いえ、リョウコさんは相変わらずお美しいですねって言ったんです」
リョウコ「嬉しいわ。これで北条由里のひと夏の恋もツユと儚く消えたってわけね。
あーっはっはっはっは!(ぼそっと)誰からもつっこまれないと調子出ないわね」

(SE)カマクラ駅東口前バスロータリーの雑踏。

NA(細川)そしてその夜。ユウコ様は木下惣一郎をカマクラ駅前に呼び出したのでした。
ユウコ様はおそばにいたいというわたしたちの申し出を柔らかに断り、そして。

山名「ユウコ様、その交差点を曲がるとカマクラ駅です」
ユウコ「ありがとう山名、ここでいいわ」
細川「本当におひとりで行かれるのですか?」
ユウコ「もちろんよ。大人の男性に交際を申し込もうというのに、山名や細川が付き添っていたらおかしいでしょう?」
細川「ですが」(SE)BMWのドアが開く音。ガチャ!
ユウコ「だいじょうぶ。わたしはアシカガ宗家の長女よ。これくらいのことはなんでもありません」(SE)ドア閉まる音。バム!
細川・山名「ユウコ様」(SE)アシカガユウコが歩き去る足音。コツコツコツ。
カコ「ね、ラオックス!ユウコお姉ちゃんが告白するんだってさ。それも小学生のとき、
同級生にバレンタインチョコを贈ったとき以来の告白らしいんだ。
(SE)BMWのドアがゆっくり開く音。
ね、ちょっと心配だからこっそり後をついていって、なにかあったらすぐに知らせるんだよ」
ラオックス「ニャン!」(SE)ラオックスの走る足音。チャッチャッチャッチャ!

(SE)カマクラ駅前の雑踏。少し離れたところにハンゾウと西園寺人麻呂が車で到着。
ハンゾウ「アシカガユウコが車を降りたぞ。ほら、おまえが彼女に近づくのは今がチャンスだ」
西園寺「(おたくっぽい)ハ、ハンゾウもいっしょに、こ、来い!」
ハンゾウ「おれがそばにいたら警戒されるだろう。車から指示を出す。うまく言うんだ」
西園寺「な、なんて、い、言えばいいのかな?」
ハンゾウ「そうだな。今日はアシカガユウコの誕生日だ花を贈って食事にでも誘い出してみるか」
西園寺「も、もし断られたら、ど、どうするんだ」
ハンゾウ「アシカガユウコは、女である以前にアシカガ自動車グループのトップだ。
西園寺グループとの取引への影響を考えたらお前からのプロポーズは断れやしないのだよ」
西園寺「(嬉しそう)そ、そうだよな?」
ハンゾウ「イヤホンはつけたな?おれがインカムから指示を出す。ユウコがどのような言動に出ても、
おまえは、俺が言うとおりに動けばいい。そうすれば、彼女はきっとおまえのものになる」
西園寺「ほ、ほんとだな?」
ハンゾウ「まあ、任せておけ」

(SE)ハンゾウの車のやや遠くでアオイの車が停車する。ブウウウ。キキッツ!

リョウコ「アオイ様?駅に来てどうするの?この近くでお食事でも?」
アオイ「ちょっと用事を思い出したんです。ここで少し待っていてくれませんか?」
リョウコ「え?う、うん」
アオイ「(独白)さて、ハンゾウのお手並み拝見といくか」
(SE)アオイが車を降りて歩き出す。駅の雑踏の中で、ユウコと木下惣一郎の会話。
ユウコ「木下様わざわざお越しいただきましてありがとうございます」
木下「こんばんは。今日はどうしたんです。アシカガユウコさんがじきじきにお呼び出しとはね」
ユウコ「あ、あのわたし」
木下「うん?」
ユコ「あの(迷いを吹っ切るように)木下様、今、お付き合いしている女性はいらっしゃるのかしら?」
木下「ずいぶん唐突な質問だね。いや、いないよ。それがなにか?」
ユウコ「あの、(深呼吸)わたしとお付き合いしてくださらないかしら?」
木下「うーん?どういう風の吹き回しだい?アシカガユウコさんがぼくに交際を申し込んでくるなんて」
ユウコ「わたし、木下様のことが好きになったみたいなの」
木下「それ、本気かい?」
ユウコ「(どぎまぎ)え、ええ、本気です」
木下「ふうん。ぼくのことが?けど、ぼくみたいな中年男でいいのかい?」
ユウコ「そ、そのようなことは問題ではありません」
木下「キミは無理をしているように見えるよ。痛々しいくらいにね」
ユウコ「え?」
木下「キミはどうしてもぼくをアシカガ自動車グループに引き入れたい。
けれどもぼくはお金や名誉では動かない。だからキミはこう考えた。
ぼくと交際をすることになれば、きっとぼくがアシカガグループに移籍してくれるだろう、と」
ユウコ「(息を飲み込む)!」
木下「ユウコさん、自動車学校本来の目的に立ち返って考えてみるといい。
正しいドライバーを育成することだろう?それ以上でも、それ以下でもない。ひとつ
ひとつは小さな仕事だが、それがとても大切な積み重ねなんだ。ぼくは、
そういう仕事ができるところだったら、どこだっていい」
ユウコ「木下様」
(SE)カマクラ駅前の雑踏。再び。
ハンゾウ「ほら、アシカガユウコはそこにいる!いっしょにいるのは
カマクラ自動車教習所の木下とかいう技能検定員だ。やつは気にしなくていい。
ユウコがアシカガ自動車グループに引き入れる交渉を行っているだけだ」
西園寺「う、うん。わかった」
(SE)駅の雑踏の中で、ユウコと木下惣一郎の会話続いている。
木下「ははは。キミのその健気な勇気がぼくを動かしたのかな。
(ユウコに)今度、響子ちゃんに言ってみるよ。アシカガ自動車学校で教官としてちょっと働いてみたくなったってね」
ユウコ「ほ、本当に?ありがとうございます。木下様」(SE)カギがさらに軋る音。カチリ。
木下「じゃ、これで話は済んだね?」(SE)木下が去ろうとする足音。
ユウコ「あ、あの」
(SE)カマクラ駅前の雑踏。再び。
ハンゾウ「今だ!行け」(SE)ハンゾウ、西園寺の肩をたたく。ポン!
西園寺「う、うん。(SE)西園寺がユウコに近づく。
ア、アシカガユウコさん、おれ西園寺だ」
ユウコ「え?あ、ああ、西園寺財閥の」
西園寺「そ、そうだ。今日は、ユウコさんのお誕生日だな。お、お花を持ってきた」
(SE)西園寺がユウコにバラの花を手渡す。
ユウコ「あ、バラのお花。ありがとう」
西園寺「お、おれ、ユ、ユウコさんとつきあいたいんだ。い、いいだろ?」
ユウコ「え?わたしと?」
西園寺「そ、そうだ、お、おれとつきあってくれるよな」
ユウコ「(返答に窮している)」(SE)場面転換。アオイがハンゾウに近づいてくる。
アオイ「どうだ、ハンゾウ?うまく行きそうか?」
ハンゾウ「うん?ああ、アオイか。もう少しだ。まあ見ていろ」
(SE)インカムからハンゾウの指示。
ハンゾウ「そら、もうひと息だ。おれとつきあったら、
(イヤホンの声)西園寺財閥とアシカガ自動車グループの結びつきが強くなると言え!」
西園寺「あ、ああわかった。ユ、ユウコさん、お、おれと付き合うと、
西園寺財閥とアシカガグループの結びつきが、つ、強くなるぞ」
ユウコ「な、なに?」
西園寺「だ、だから、お、おれと付き合ってくれるよな」
ハンゾウ「(イヤホンの声)多少強引でもいい!ユウコの手を握って食事に誘うんだ!」
西園寺「う、うんわかった」(SE)西園寺がユウコの手を握る。ギュッ!
ユウコ「あ、なにをするのですか!」
(SE)木下の足音が再び近づいてくる。
木下「ちょっといいかな、ユウコちゃん?この男が言ってることは迷惑なのかな?」
ユウコ「き、木下様。あ、あの」
木下「言いにくいんだろう。目で言ってくれればいい。どうだ?(考える)ふーん。
うん、わかった」
西園寺「なんだお前?な、なに言ってる?」
木下「きみ、西園寺、とか言ったな?」
西園寺「そ、そうだ」
木下「悪いがアシカガユウコは俺の彼女なんだ。だからそれ以上口説くのはやめてくれないか」
ユウコ「き、木下様(SE)シャララン!カギが軋る音。ガチャリ!」
西園寺「な、なんだ?そんな話聞いたことないぞ。お、お前いつから彼氏になったんだ?」
木下「たった今だ!なあ、ユウコちゃん?」
ユウコ「は、はい」
ハンゾウ「(イヤホンの声)どうした西園寺?ユウコは落ちたのか?」
西園寺「ち、違う。き、木下が」
ハンゾウ「(イヤホンの声)木下がどうした?木下がなにかしたのか?」
木下「聞こえなかったのか。悪いがこれからデートなんだよ。さ、ユウコちゃん、
行こう!それじゃな、西園寺くん」
ユウコ「え?あ、は、はい!」(SE)シャララン!カギがガチャガチャ音を立てる。
(SE)木下とユウコ、立ち去る。
木下「(歩きながら)男ができたとわかればいずれあきらめる。あの手合いには、これが一番効くんだ」
ユウコ「(歩きながら)木下様」
木下「振り向くな!向こうに車が停めてある。そこまで黙ってついてくるんだ!」
ユウコ「は、はい」
西園寺「(イヤホンの声)き、木下がユウコの彼氏になったんだってよー!は、ハンゾウ!
ど、どうするんだよー?」
ハンゾウ「ば、バカな」
アオイ「どうした?ハンゾウ?」
ハンゾウ「まさか木下が?いや、そんなはずが」
アオイ「失敗したのか?」
西園寺「(イヤホンの声)お。おい!ど、どうしてくれるんだよー。ぱ、パパにい、言いつけるぞー!」
ハンゾウ「(SE)ピッ。無線を切る音。(吐き捨てるように)ったくドラ息子が。
ガキの失恋程度のことで西園寺財閥の総帥が、いちいち動くものか!」
(SE)カマクラ駅前の雑踏。
山名「あ!カコ様!ラオックスが戻ってきました!」
カコ「あ!ラオックスーっ!おいでーっ!(SE)ラオックスが走ってくる足音。
チャッチャッチャッチャ!キキキーッフーッフーッフーッ!(息を切らしてる)
ね、ラオックス、ユウコお姉ちゃん、ちゃんと告白できた?」
ラオックス「ニャンニャニャニャ」
カコ「ね、ラオックスがジェスチャー始めたよ!なになに?♪大きなクリの木下で
ふんふん、木下がどうしたって?」
細川「カコ様、ラオックスはなにを言ってるのですか?」
カコ「♪あなたとわたし、なかよく遊びましょう。大きなクリの木下でえーっ?
ラオックスそれ本当?」
ラオックス「ニャン!」
カコ「ね、細川!山名!たいへんなことになっちゃったみたいだよ」
細川・山名「ど、どうしたのです?」
カコ「ユウコお姉ちゃんがあの木下とかいう伝説のエンジニアとラブラブになっちゃったんだって!」
細川・山名「ええーっ?」
(SE)走る車の中。カーステレオからムード溢れるメロディ。
木下「よかったなユウコさん。やつがどんなにしつこくても、もう追いつけやしない。
このまま高速に乗ってヨコハマ駅まで送るよ。そこから帰るといい」
ユウコ「あ、あの、木下様」
木下「うん?なんだい?」
ユウコ「あの、も、もう少しいっしょにいてくださらない?」
木下「うん?別に構わないが、どうした?あいつのことが、そんなに気になるかい?」
ユウコ「え?い、いえ、そういうわけではないけれど」
木下「ふーんそうだ!馬車道にいい店を知っている。そこで食事でもどう?」
ユウコ「は、はい。でも、よろしいのですか?」
木下「今日はキミの誕生日なんだろう?ご馳走するよ」
ユウコ「(嬉しい)は、はい!(SE)カギが開く音。シャララン!ガチャリ!
この胸に迫ってくるような温かい気持ちは何なのかしら?
も、もしかしてこれが恋?」
NA(細川祥子)その夜、ユウコ様はリョウコ様よりやや遅くに帰ってきたのでした。そしてひとこと、お休みなさいとだけ言うと、寝室に入られたのです。
けれども、ユウコ様は今朝とはうってかわって、とても解放的な幸せに満ちた女性の顔をしていました。
そして、わたしは直感したのです。ユウコ様のこころにかけられた『黄金錠』が、その夜、ついに開けられてしまったことを。

(第14話終わり)


音声ドラマとシナリオは演出の都合上、一部変更されている場合があります。
(C)2000-2004(K)

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